TAKUMA_N’s blog

There is only one way to eat an elephant: one bite at a time

世界情勢について

はじめに

レイ・ダリオの『世界秩序の変化に対処するための原則(以下、ダリオ本)』を読んで、世界情勢について、頭の整理をしたいと考えた。そこで、本投稿で現時点での情報をまとめる。

元々世界情勢に対する興味が薄く、仮説を立てる材料すら持っていないので、ダリオ本を意識しつつ情報をある程度集めて、それらを逐一整理していこうと考える。よって、軸の通った整理というよりも、回り道・寄り道にあふれた整理になると考えられる。整理というよりも、メモ書きに近くなる可能性が高い。

ちなみに私のバックグラウンドは政治や金融ではなく、ネットワーク・エンジニア→ITコンサル。世界情勢に関わる機会と言えば、趣味で株式投資(少し勝った)や仮想通貨シストレ(大きく負けた)をやっていた、という程度。

もくじ

世界情勢の整理

3つのビッグ・サイクル

ダリオ本では「3つのビッグ・サイクル」として、①金融のよい・悪いサイクル、②内部秩序と内部混乱のサイクル、③外部秩序と外部混乱のサイクルを上げている。本節では、この3つについて整理を行う。

金融のよい・悪いサイクル(=資本市場のサイクル)

ダリオ本によると「金融のよい・悪いサイクル」=「資本市場のサイクル」であり、本小節では資本市場について考える。

「世界中の証券取引所が扱っている株式時価総額のランキング」を見ると、アメリカの2つの取引所が持つ株式時価総額が、他の全ての国の合計よりも大きいことが見て取れる。

 

  1. ニューヨーク証券取引所/US: 28兆ドル
  2. ナスダック/US: 25兆ドル
  3. ユーロネクスト/EU: 7兆ドル
  4. 日本取引所グループ/JP: 6兆ドル
  5. 上海証券取引所/CH: 6兆ドル
  6. インド国際証券取引所/IN: 4兆ドル
  7. 深圳証券取引所/CH: 4兆ドル

出典:世界最大の証券取引所 2024年 | Statista

 

米中の対立が叫ばれて久しいものの、ここだけを見ると国としての資本には5倍以上の大きな差があるように見える[*1]。現在、米中の対立が本当に拮抗しているものなのであれば、①国同士の対立には資本以外の要素(軍事力等)が絡む and/or ②国の資本を測るために株式時価総額は相応しくない and/or ③成長率/衰退率も加味するべきである、ということなのだろう。

*1: アメリカの証券取引所時価総額は53兆ドル(28+25)で、中国は10兆ドル(=6+4)

実際、名目GDP(2023年)だと米国は中国を52%上回る程度であり、劇的な差とまでは言えない(2位の中国と3位のドイツの差は4倍)。つまり、株式市場の時価総額は、名目GDP(≒国の資本と考える)とそこまで紐づかないもののように思われる。

 

出典:【2023年10月最新】世界GDP(国内総生産)ランキング(IMF)|セカイハブ (sekai-hub.com)

 

①中国は株式市場の時価総額に比べてGDPが大きく見えていること、②「GDP=民需+政府支出+貿易収支」であること、③中国は社会主義国であることを合わせて考えると、中国の政府支出額が大きいのではないかという予想が立てられる。
(④中国の企業が、企業規模に比してかなり大きいGDPの流れを生み出しているという理屈もありうるが、これはあまり現実的でないと考えられる)

下図はGDPに占める政府支出の割合推移を示しており、上図が中国で、下図がアメリカである。2016年~2019年の政府支出は「中国>アメリカ」であったが、それ以外の年ではそこまで大きな差は見られない。つまり、「中国の政府支出が極端に大きいのではないか」という読みは間違っている。

 

出典(上):China Government spending, percent of GDP - data, chart | TheGlobalEconomy.com

出典(下):USA Government spending, percent of GDP - data, chart | TheGlobalEconomy.com

 

次に、GDPに占める貿易収支の割合推移を確認する(上図が中国、下図が米国)。中国は貿易黒字、米国は貿易赤字であるものの、共に3%台とGDP全体に与える影響が大きそうには見えない。

 

出典(上):China Trade balance, percent of GDP - data, chart | TheGlobalEconomy.com

出典(下):USA Trade balance, percent of GDP - data, chart | TheGlobalEconomy.com

 

中国と米国のGDPの構成割合を比べたとき、政府支出と貿易収支に大きな差はなかったことから、民需GDPに占める割合にも大きな差はないことが分かる。つまり、中国の民需を52%増すと、ほぼ米国の民需と等しい金額になる。その一方で、株式市場の時価総額は5倍程度の差が付いている。

民需(52%差)と株式市場の時価総額(5倍の差)では、大分開きが見られる。この理由として考えられるのは、「不動産バブル」だろうか。中国の不動産バブルは2009~2015年ごろが起点のようで、下図に示す中国GDP推移において、推移の傾きが大きくなった時期とも一致する。

不動産バブルがGDPを押し上げたのか、不動産バブルを起こした要因がGDPをも押し上げたのかを読み取ることはできないが、何かしらの関係はありそうである(★要検証)。

 

出典:Timelines Explorer - Data Commons

 

ここでアメリカのGDP推移も確認すると、こちらもほぼ右肩上がりであることが分かる。

 

出典:Timelines Explorer - Data Commons

 

なお、2024年のアメリカCPIは313.6で、1990年(130.7)の2.5倍ほどである。同じ期間でGDPは4.7倍超になっているので、インフレ率を追い越してGDPが成長していることが分かる。

出典:アメリカの消費者物価指数(CPI)の推移(IMF)|セカイハブ (sekai-hub.com)

 

右肩上がりのグラフを見比べても違いが分かりにくいため、2024年現在でのGDP上位7ヵ国について、1960~2023年のGDPの割合推移を確認する。

アメリカはレーガノミクス(1980年代)とITバブル(1990-2000年代)を除いて、割合を落としているように見える。データを見つけることはできなかったが、アメリカの累積債務と関係がある可能性があるように思う(★要検証)。

 

出典(データより自作):GDP (current US$) - China, United States, Japan, Germany, India, United Kingdom, France | Data (worldbank.org)

 

WORLD BANKの"GDP (current LCU)"と"Official exchange rate (LCU per US$, period average)"を併せて見ることで、それぞれの時代でGDPが何ドルに見えていたのかも確認する。

"GDP (current LCU)"はインフレ調整なし(算出された数字そのまま)で、"GDP (constant LCU)"はインフレ調整あり→WORLD BANKによる説明ページ

 

出典(データより自作): World Bank 

 

 

これを国別の割合として示すと、下図のようになる。

 

出典(データより自作): World Bank

 

見たままの感想を挙げる。

  • アメリカは割合を落とし続けていたが、2020年ごろから勢いを取り戻しつつある
    (一方1981年等を見ると、この程度の反発は珍しくもなさそう)
  • 日本は2000年前から、割合を落とし続けている
  • 1960年~2000年では、インドはフランスよりも強かった(インド独立は1950年)

折れ線グラフの方を見るとアメリカは一貫してGDPを伸ばし続けているので、割合を落としているというのは、アメリカが失速しているというよりも、他国がGDPを伸ばす速度を上げてきていることが理由である。

 

GDP成長率の10年間平均をグラフにすると、2002~2012年頃の中国の成長率が、1968~1978年頃(日本列島改造論)の成長率に近いことが見て取れる。

 

出典(データより自作):World Bank

 

1970年代の日本円は固定相場制なので、「生活が豊かになっているかどうか」「国力が付いているかどうか」に関わらず、単にインフレを起こしていてもGDPは高くなる。WORLD BANKの"GDP, PPP (current international $)"を見ることで、物価も織り込んで考えることができるはずなのだが、該当データは1990年からのものしかなかった。

※下図では10年平均の値を利用しているため、グラフは2000年からスタート

 

出典(データより自作):World Bank

 

1970年代の日本は分からないが、昨今の中国・インドはインフラではなく、実体経済の成長を伴ってGDPが大きくなっているようである(中国・インドのGDP等の統計値が正しいものであるという前提)。

いずれにしても中国・インドのGDP成長「率」は、2000年には既にアメリカ・日本を追い抜いており、GDP自体が追い越されるのも時間の問題であったことが見て取れる。

時期的に、鄧小平(とうしょうへい)の改革が功を奏したのだろうがしかし、いくら鄧小平が偉人だったとしても、こんなに短期間で中国を上手く成長させることができたのはなぜなのだろうか?

本当のところは腰を据えて調べる必要があると思われるが、ダリオ本を見る限り、①独裁的な政策推進(開発独裁)、②世界中の先進事例のコピー(山寨)、③安い労働力の活用(世界の工場)、④戦略的な教育課程の見直し(211工程)、⑤イノベーションを生むための施策(経済技術開発区)、⑥金融都市の構築(上海)等の要素が、上手く噛み合ったのだろうと考えられる(★要検証)。

ちなみに先ほどの物価を織り込んだGDPだと、中国は既に世界一になっている。つまり、GDPの数字自体はアメリカの方が大きいものの、中国の物価の安さを考えると、既に中国が世界で一番豊かな国になっている。

※「中国の物価の安さを考えると」というのは、中国には安物が溢れているということではなく、全く同じものに対して、中国よりもアメリカの方が高い値段が付いているということ

 

出典:GDP, PPP (current international $) - United States, Japan, China, India, France, United Kingdom, Germany | Data (worldbank.org)

同様に、インドも日本より「豊かな国」ということになっている。ここにある肌感とのズレは、中国やインドのGDPは人数の多さによってもたらされていることに起因する。例えば中国の人口は日本の10倍以上いるため、本来は日本のGDPの10倍以上あってもおかしくはない(だが、そうなってはいない)。

ここについては、一人当たりのGDP("GDP per capita, PPP (current international $)")を見ると一目で分かる。

 

出典:GDP per capita, PPP (current international $) - United States, Japan, China, India, France, United Kingdom, Germany | Data (worldbank.org)

 

「平均的な日本人は平均的なインド人の5倍程度、良い暮らしをしている」というのは、納得しやすい数字ではないだろうか(一方で日本人は、アメリカ人の半分近いレベルの暮らししかできていない)。

本小節をまとめる。世界全体で見れば、GDPは増加し続けている。国ごとのサイクルという意味だと、中国・インドは伸び、日本は萎(しぼ)んでいる。米欧は伸び悩んでいる。感覚的には、中国・インドがアメリカに代わってイノベーションを起こせる国になれるかどうかが、次の試金石である(★要検証)。

国力を示す8つの主要指標

ダリオ本では「国力を示す8つの主要指標」として、①教育、②イノベーションとテクノロジー、③コスト競争力、④軍事力、⑤貿易、⑥経済生産高、⑦市場と金融センター、⑧準備通貨の地位を上げている。本節では、この8つについて整理を行う。

イノベーションとテクノロジー

本小節では、イノベーションとテクノロジーの指標について考える。

グローバル・イノベーション・インデックスによれば、イノベーションをもたらす要素は下記の7つである。

  1. 法規制
  2. 人材・研究
  3. インフラ
  4. 市場の成熟度
  5. 企業の成熟度
  6. ナレッジやテクノロジーの産出
  7. クリエイティブの産出

それぞれの要素をブレイクダウンを考える。

1. 法規制:①特許法著作権法等の、知的財産が守られるための仕組み、②発明・開発の障害を取り除くための規制緩和、③国際協力関係の構築主導

2. 人材・研究:①STEM(Science, Technology, Engineering and Mathmatics)教育の推進、②奨学金等での高等教育の推進、③大学や企業に対する助成金、④産学連携の推進(スイスの事例

3. インフラ:①スパコンや研究施設そのもの、研究都市等、大学や企業等では準備しにくいインフラの整備

4. 市場の成熟度:①起業の推奨度合い、②リスクマネー供給量増加

5. 企業の成熟度:①企業の新規事業に対する理解度

6. ナレッジやテクノロジーの産出:

7. クリエイティブの産出:

なお、日本政府もイノベーション戦略を立ててはいる

  • K Program
    • 衛星の寿命延長に資する燃料補給技術
    • 次世代半導体微細加工プロセス技術
    • デジタル技術を用いた高性能次世代船舶開発技術及び船舶の安定運航等に資する高解像度・高精度な環境変動予測技術
    • 耐熱超合金の高性能化・省レアメタル化に向けた技術開発及び革新的な製造技術開発
    • 超高分解能常時観測を実現する光学アンテナ技術
    • 孤立・極限環境に適用可能な次世代蓄電池技術
    • 海中作業の飛躍的な無人化・効率化を可能とする海中無線通信技術
    • 高高度無人機を活用した災害観測・予測技術の開発・実証
    • セキュアなデータ流通を支える暗号関連技術(高機能暗号)
    • ノウハウの効果的な伝承につながる人作業伝達等の研究デジタル基盤技術
    • 輸送機等の革新的な構造を実現する複合材料等の接着技術
    • 多様な物質の探知・識別を可能とする迅速・高精度なマルチガスセンシングシステム技術
    • 脳波等を活用した高精度ブレインテックに関する先端技術
    • 多様な機器・システムへの応用を可能とする超伝導基盤技術
  • 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)
    • 豊かな食が提供される持続可能なフードチェーンの構築
    • 統合型ヘルスケアシステムの構築
    • 包摂的コミュニティプラットフォームの構築
    • ポストコロナ時代の学び方・働き方を実現するプラットフォームの構築
    • 海洋安全保障プラットフォームの構築
    • スマートエネルギーマネジメントシステムの構築
    • サーキュラーエコノミーシステムの構築
    • スマート防災ネットワークの構築
    • スマートインフラマネジメントシステムの構築
    •  スマートモビリティプラットフォームの構築
    • 人協調型ロボティクスの拡大に向けた基盤技術・ルールの整備
    • バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備
    • 先進的量子技術基盤の社会課題への応用促進
    • マテリアル事業化イノベーション・育成エコシステムの構築
  • ムーンショット型研究開発制度
    • 身体、脳、空間、時間の制約からの解放
    • 疾患の超早期予測・予防
    • 自ら学習・行動し人と共生するAIロボット
    • 地球環境の再生
    • 2050年の食と農
    • 誤り耐性型汎用量子コンピュータ
    • 健康不安なく100歳まで
    • 気象制御による極端風水害の軽減
    • こころの安らぎや活力を増大
  • BRIDGE
    • 第2期マテリアルスタートアップインキュベーション促進事業
    • 商用光量子コンピュータの構築
    • 量子スピンセンサのμモジュール化による新規ユースケースの創出
    • 医療デジタルツインの発展に資するデジタル医療データバンクの構築と社会実装
    • 感染症危機管理に資する次世代迅速検査診断法の確立と検査データの収集・分析・共有体制の社会実装
    • 次世代バイオマスアップサイクル技術の世界展開に向けた調査研究
    • 迅速な災害復旧等に向けた時系列・三次元モデルを用いた国土履歴のAI判別技術の開発・普及
    • 越境性感染症等の流行に即応可能な動物用ワクチンの次世代化
    • 生物多様性と農業生産を脅かす侵略的外来種の根絶技術の開発
    • 創農薬AIの基盤構築
    • 同時改変ゲノム編集技術を用いた産業植物の創出
    • CO2排出削減効果の定量化による公共調達のGXの推進
    • 建設機械施工のオートメーションハブの構築
    • 港湾施設の被災状況把握・利用可否判断の迅速化
    • 金融/投資機関による自然関連情報開示促進と国際標準化を前提としたネイチャーフットプリントの開発と実証事業
    • 産官学連携による熱中症リスク低減のための先端的な暑さ指数計測技術の社会実装
    • 花粉症問題に対応するためのAI技術・リモートセンシング技術を活用した花粉観測手法の高度化
  • e-CSTIによる政府予算使い道の確認
  • 大学ファンド
  • 国際頭脳循環
  • SBIR制度

他のキーワードとして、ディープテックもある。

更新履歴